トンカツ界のドン

    老舗のトンカツ屋のとんきで食事をするのは、何ともいえない体験だ。なにも期待せず来店した客は、完璧に統制されたショーに驚かされることだろう。トンカツの舞とでも言うべきか。常に行列ができているが、割に店内が広いので、待ち時間はあまり長くはない。店内に入ると厨房を囲むコの字型のカウンターに通され、すぐに注文を聞かれる。メインのメニューは「ロースかつ」と「ヒレかつ」の2種類しかないので選ぶのに時間はかからないはずだ。注文を済ませたらビールを片手に目の前の美しいステージを満喫しよう。それぞれの従業員の役目は決まっている:注文を聞く担当、肉に衣をつける担当、揚げる担当、切る担当、そして盛りつけの担当だ。

    このショーのメインステージは厨房の真ん中にある油が入った鍋である。油から絶妙なタイミングでトンカツを素手で引き上げ、食べやすい大きさに切り分ける職人技は圧巻だ。思わず見入ってしまいそうだが、ここに来た理由はトンカツを食べることであるのを忘れてはいけない。揚げたてのトンカツが新鮮なキャベツと一緒に目の前に登場する。一口食べると、それは正しくトンカツがあるべき姿である—サクサクとした衣に、柔らかな肉質と、丁度良い脂の旨味。

    ここよりも美味いトンカツを出す店が他にあるかって?可能性はなくはない。しかしこの職人技を間近で見る醍醐味を味わえるのはここ、とんきだけである。